腹水の貯留による痛みや吐き気、息切れ、体動困難など様々な症状。緩和ケアの現場では、これら腹水からくる各種症状の改善を目指し、個々の症例に応じた適切な治療法が選択的に行われています。
ここでは、腹水の症状や原因、治療法、効果が期待できる薬剤などについてご紹介しています。
がん末期の患者さんに見られることの多い腹水。
溜まった腹水が少量であれば、特に大きな自覚症状はありませんが、中程度の量の水が溜まってきた頃から、自覚症状や外観に変化が生じ始めます。
腹水が溜まった時に患者さんが感じる主な自覚症状を見てみましょう。
腹水が多く溜まった場合、お腹が大きく膨らんで体型が変化します。また、溜まった腹水の影響で体重が増加することもあります。
腹水が溜まることで、お腹が張った感覚となります。張りが著しい場合、へそが扁平になったり飛び出したりすることもあります。
胃腸や肺への圧迫、腹部膨満の不快感や苦痛などの影響で、食欲が低下したり吐き気を覚えたりする患者さんも多く見られます。
お腹の著しい膨満や肺への圧迫などから、体動(体を動かすこと全般)が困難になることもあります。
中には、横になって寝ることさえ難しくなる患者さんも見られます。
腹水の影響による腹圧のかけにくさや、大腸の蠕動運動の低下などを原因に、便が出にくくなることもあります。
腹水による肺への圧迫により、息切れが生じることもあります。
過剰にたまった腹水が誘因となり、下肢に浮腫(むくみ)が生じることもあります。
上記のような様々な症状が複合的に生じた結果、活動意欲が低下し、徐々に日常生活動作(ADL)が困難になるケースも見られます。
腹水は、様々な原因で発生します。主な原因の1つが、がんです。
がん細胞が腹膜に転移してがん性腹膜炎を起こすと、炎症の影響により血管内の水分がにじみ出してきます。この水分がお腹に溜まった状態を悪性腹水と言います。
がん性腹膜炎を起こしやすいがんとしては、胃がんや大腸がん、卵巣がんなどが知られています。
腹膜炎以外でも肝転移による肝機能低下やがん病変による門脈の閉塞、腫瘍塞栓などががん関連の原因となります。
がんの他にも、低栄養、心不全や腎不全、肝硬変、ウイルス性肝炎、膵炎、結核性腹膜炎などが腹水の主な原因となります。
腹水を原因とする各種症状を緩和させるためには、単に注射器などで腹水を抜いてしまえば良いというわけではありません。
一方で、医療用麻薬などによる症状の緩和も難しいとされています。
症状が悪化すると、後述する利尿薬への反応も弱くなる「難治性腹水」に進行。
難治性腹水に対しては、腹腔穿刺ドレナージによって腹水を体外に排出する緩和目的の対症療法(緩和的排液)が第一選択として検討されます。
ただし、腹腔穿刺ドレナージを繰り返すと全身の栄養状態が悪化したり免疫機能が低下したりすることがあるため、安易に繰り返すことはできません。
現状、腹水の治療法としては、症状に応じて次のような方法が選択的に検討されます。
悪性腹水で腹部膨満を自覚し始めた患者さんに対し、利尿薬の投与で症状緩和を目指すことがあります。
主に使われる利尿薬はスピロノラクトンとフロセミド。がん以外の原因で生じた腹水にも広く用いられている治療法です。
下肢の電解質異常や心不全化傾向が認められる場合、トリバプタンが有用な場合があります。
利尿薬の影響で電解質異常や血圧低下を招くリスクもありますが、腹水改善のメリットのほうが大きいことから、多くの臨床現場で用いられています。
腹腔穿刺ドレナージとは、腹腔内に針を刺して腹水を体外へ排出させる治療法です。
腹水が速やかに排出されるため、腹水による腹部膨満や苦痛、息苦しさなどの症状も速やかに改善されます。
治療コストが低いこと、患者の拘束時間が短いことなども腹腔穿刺ドレナージのメリットです。
一方で、デメリットも少なくありません。
– 針を刺すなどの手技にともなう苦痛を避けられない
– 頻繁に行うことで患者の全身状態が悪化することもある
– かえって腹水貯留を加速させる恐れがある など
そのため、治療の実施に際しては慎重になる必要があります。
患者の体内から採取した腹水を専用フィルターにかけ、細胞や細菌を除去した上で蛋白を回収して凝縮し、患者さんの静脈から体内へと戻す治療法です。
1981年に保険適用された治療法で、当初は肝性腹水やがん性腹水などに広く用いられていました。しかし、多くの臨床を経て、CARTはがん性腹水に適さないとの見解も見られるように。
なお、CARTの効果に関する明確なエビデンスはありません。
腹水の溜まった腹腔と鎖骨付近にある静脈をカテーテルでつなぎ、腹水を静脈へ直接つなぐ道を造設する治療法です。
腹水を血管内に流入させることで、腹部膨満や呼吸困難、体動制限などの様々な症状の緩和を目指します。
腹腔静脈シャントの効果や安全性などが確立すれば、腹腔穿刺ドレナージが不要となる可能性があるものの、エビデンスが不足しているとの指摘もあります。
腹水の各種症状に効果が期待できる薬剤として、臨床から様々な報告が挙がっています。
現状、利尿薬の効果は高いとされて広く医療現場で用いられていますが、その他の薬剤については、各患者の症状や医師の判断により選択的に利用されています。
腹水の症状改善に利用されている主な薬剤を見てみましょう。
すでに説明していますが、悪性腹水に対する治療法として、利尿薬は広く用いられています。
主に用いられている利尿薬はスピロノラクトンとフロセミド。スピロノラクトン50~100mgを基本とし、初期にフロセミド20~40mgを併用することが推奨されます。
カリウムの値によりスピロノラクトンとフロセミドの比率を検討し直す必要もあります。
ナトリウム値が低い場合、トリバプタンが有用な場合があります。
肝転移などによる漏出性腹水に対し、伝統的にアルブミンが使用されています。
ただし、近年は費用対効果の観点から、特にがん性腹膜炎ではアルブミンの使用が推奨されていません。
腹水を減らす目的ではなく、腹水による腹部膨満感を緩和させる目的で、少量のオピオイド(麻薬性鎮痛薬)を使用することがあります。
単に「お腹が張っている」という症状ではなく、「お腹が張って痛みがある」という症状に効果が期待できます。
なお、国内ではオピオイドとは異なる麻酔薬キシロカインやケタミンが推奨されることもあります。
筋弛緩作用のある抗不安薬(セルシン、ダイアップ坐薬、エチゾラムなど)が、悪性腹水の各種症状緩和に効果を発揮することもあります。
高サイトカイン血症が見られた患者さんに対しては、少量のステロイドを全身投与するよう教科書に記載されています。ただし、効果を実証する報告はありません。
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