女性に多く見られるがんのひとつとして知られている「甲状腺がん(こうじょうせんがん)」。もし自分や大切な家族ががんと診断されたとき、多くの人が注目するのが「生存率」という言葉でしょう。
本記事では、甲状腺がんについて、がんの種類やステージごとの5年生存率・10年生存率のデータを解説します。併せて、知っておきたい生存率の基礎知識や、日本における甲状腺がんの現状についてもわかりやすく取り上げています。
はじめに、「生存率とはそもそも何なのか」「どのような種類があるのか」という基本から確認していきましょう。
生存率とは、「ある病気と診断された人が、一定の期間が経ったあとにどれくらい生存しているか」をパーセンテージ(%)で示した割合です。
がんの統計では「5年生存率」が代表的によく使用されます。
ただしここで強調したいのは、これらの数字は過去の統計データに基づいた「全体の傾向」に過ぎないということ。実際の経過は、がんの進行具合や治療の選択、一人ひとりの体質など、さまざまな要因によって大きく異なります。
「生存率」といっても、計算方法にはいくつかの種類があります。医療データを見るうえで知っておきたい代表的な3つをご紹介します。
がんと診断された人のうち、一定期間後に生存している人の割合をシンプルに計算した数値です。
この数値には、「がん以外の原因(別の病気や事故など)」で亡くなった人もすべて含まれるため、純粋ながんの影響だけを測ることはできません。
がん患者さまの生存率を、同じ年齢層の健康な人の生存率と比較して算出した割合です。「がんがなければ本来これくらい生きられたはず」という基準と比較するため、実測生存率よりも「がんがどれくらい生存に影響を与えているか」が明確になります。
【例】
ある年齢層のがん患者の5年生存率が80%、ある年齢層の健康な人の5年生存率が95%
⇒ 5年相対生存率は約84%
近年、より正確ながんの指標として研究などで広く使われているのが、この「ネット・サバイバル」です。
がん以外の死因(事故や別の病気など)による影響を完全に除外して計算されるため、「がんそのものが生存に与えている影響」をより正確に把握しやすくなります。
【例】
5年ネット・サバイバルが60%
⇒ 100人中60人が5年後に生存 ※がん以外の死因は含まない
生存率は、あくまで統計的なデータに基づく傾向であり、決して「あなた自身の未来の余命」を決める数字ではありません。
医療現場でこのデータが大切にされているのは、治療の効果を客観的に把握するためです。
「どの治療が有効なのか」「どの程度生存率を伸ばせるのか」を医療に活かすための手がかりとなり、がん治療のための大切な指標として用いられているのです。
データを見る前に、まずは甲状腺という臓器の役割と、そこにできるがんの症状や種類について簡単におさらいします。
甲状腺は、首の前側、喉仏の下あたりにある、10〜20グラムほどの小さな器官です。蝶々が羽を広げたような形をしており、気管を包み込むように位置しています。
主な役割は「甲状腺ホルモン」をつくり、血液中に分泌することです。このホルモンは、以下のように体全体の重要な機能をコントロールしています。
多くの甲状腺がんは、初期段階では痛みがなく、首のしこりに気づく程度か、あるいは自覚症状がまったくありません。しかし、がんが大きくなったり進行したりすると、以下のような症状が現れることがあります。
甲状腺がんは、がん細胞の性質によって5つの種類に分かれます。
どの種類かによって、進行のスピードや治りやすさ(予後)が大きく異なるのが、甲状腺がんの重要な特徴です。
参照元:国立がん研究センター公式 がん情報サービス「甲状腺がんについて」2026年6月19日時点
https://ganjoho.jp/public/cancer/thyroid/about.html
甲状腺がんの主な原因として、女性ホルモンの関与が挙げられています。
女性ホルモンのひとつである「エストロゲン」は、甲状腺細胞の増殖や発達に深く関わっており、月経、妊娠、出産、更年期など、ホルモンバランスが大きく変動する時期に甲状腺の活動が活発になるため、細胞に変異が起きやすい環境になると考えられています。
国立がん研究センターのデータをもとに、甲状腺がんの種類別・ステージ別の生存率をまとめました。
※ここでは、がんそのものの影響を正確に表す「ネット・サバイバル(純生存率)」の数値をメインに紹介します。
| がんの種類 | ステージ | 5年生存率 | 10年生存率 |
|---|---|---|---|
| 乳頭がん・濾胞がん | 全体(平均) | 96.1% | 90.5% |
| Ⅰ期 | 97.9% | 97.3% | |
| Ⅱ期 | 97.0% | 89.0% | |
| Ⅲ期 | 98.9% | 95.4% | |
| Ⅳ期 | 89.2% | 72.9% | |
| 低分化がん | データなし | ||
| 髄様がん | 全体(平均) | 93.7% | 90.8% |
| 未分化がん | 全体(平均) | 8.9% | – |
| Ⅳ期 | 8.4% | – | |
(診断年と生存率:2015年5年生存率・2012年10年生存率)
甲状腺がんの大部分を占める「乳頭がん」と「濾胞がん」は、全体的に生存率が非常に高い(予後が良い)ことがデータからもわかります。ステージⅣまで進行している段階であっても、5年生存率は約9割を維持しています。
2. 甲状腺髄様がん(ずいようがん)
髄様がんは全体の症例数が少ないため、ステージ別の詳細なデータはありませんが、全ステージを合わせた全体の生存率は、5年生存率が93.7%、10年生存率が90.8%となっています。乳頭・濾胞がんと同様に、高い生存率を示しています。
未分化がんは極めて進行が速く悪性度が高いため、診断された時点で全例が「ステージIV」に分類され、他の甲状腺がんと比較して生存率の数値が大きく異なります。
※10年生存率は症例数不足のためデータなし
参照元:国立がん研究センター がん情報サービス「院内がん登録生存率集計」(2015年5年生存率・2012年10年生存率)
https://hbcr-survival.ganjoho.jp/search
甲状腺がんは、日本においてどれくらい多くの人がかかっている病気なのでしょうか。
2023年の罹患データからその特徴を読み解きます。
日本国内におけるがんの罹患数を見ると、甲状腺がんは「圧倒的に女性に多く見られるがん」であることがはっきりとわかります。
女性の罹患数は、男性の約3倍にものぼります。この明確な男女差は、甲状腺がんの大きな特徴のひとつであり、先述したとおり、女性ホルモンが大きく関連していることに由来します。
甲状腺がんにかかる割合(罹患率)を年齢層ごとに見ると、男女で推移が異なります。
男性は年齢とともに少しずつ緩やかに上昇していくのに対し、女性は20代を過ぎたあたりから急激に罹患率が跳ね上がるのが特徴です。その後、女性は20代から高齢層にいたるまで高い水準(男性の2〜7倍前後)で推移し、ピークは女性が70〜74歳、男性は80〜84歳となっています。
男女とも、85歳以上の超高齢層に入ると、罹患率は少し減少する傾向がみられます。
参照元:国立がん研究センターがん情報サービス「がん統計」甲状腺 2023年統計
https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/cancer/24_thyroid.html
まとめ
甲状腺がんの生存率は、がん細胞のタイプによって大きく異なるという特徴があります。全体の約9割を占める「乳頭がん」や、それに続く「濾胞がん」では、全体の10年生存率が約9割と非常に良好な経過を示している一方で、発生はまれであるものの進行が極めて速い「未分化がん」もあります。種類によっては生存率が大きく下がるものもあるため、ひとくちに甲状腺がんといっても、性質に応じた正確な診断が欠かせません。
このがんは圧倒的に女性に多くみられ、女性では20代という若い世代から罹患率が急上昇する傾向にあり、若いからと油断せず、首元のしこりや違和感に注意を払うことが肝要です。
なお、生存率のデータは過去の統計から導き出されたひとつの目安であり、治療技術の進歩や患者さま一人ひとりの身体の状態によって、実際の経過はさまざまに変化します。
過度な不安に惑わされることなく、自身の病気の種類や状態を正しく理解し、医師と相談のうえで最適な治療法を選択していくことが大切です。
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