がんの治療を続けるなかで「末期がん」という言葉を耳にすると、大きな不安や恐怖、戸惑いを感じる方は少なくありません。
しかし、この言葉の正しい意味や、サポート体制について知ることで、これからの過ごし方や選択のヒントが見えてくることがあります。
本記事では、「末期がん」という言葉の本来の定義をはじめ、ステージ4との違い、日本人に多くみられる7つのがんの具体的な症状、そして、心身のつらさを和らげるさまざまなケアについてわかりやすく解説します。
「末期がん(まっきがん)」とは、一般的に「がんが進行しており、現代の医療では根治(完治)を目指すことが難しい段階」を指して使われる言葉です。
じつは、この「末期」という言葉には医学的な厳密な定義があるわけではなく、医師の間でも使い方や意味合いにはある程度の幅があります。医師が患者さんやご家族に「末期がん」として説明を行うのは、おおむね以下のようなタイミングです。
非常によく混同されがちですが、「末期がん」と「ステージ4」は同義ではありません。
| ステージ4 | 末期がん |
|---|---|
| がんが最初に発生した場所を越えて、 遠くの別の臓器や離れたリンパ節に転移(遠隔転移)している状態を表す 「医学的な進行度の分類」 |
ステージの数字に関わらず、がんの勢いを抑える治療が難しくなったという 「治療の見通し(予後)に基づく状態の 呼び方」 |
そのため、遠隔転移がある「ステージ4」であっても、薬がよく効いて元気に日常生活を送れているならば「末期がん」とは呼びません。逆に、ステージの数字がそれ以下であっても、患者さんの体力低下などの理由で治療をこれ以上続けられないと判断された場合は「末期」と判断されることがあります。
手術ができるか、治療を継続できるかといった、患者さん一人ひとりの全身状態によって意味合いは大きく異なります。
がんが進行して根治が難しくなると、がんがある元の場所(局所)の症状だけでなく、別の臓器へ転移したことによる症状や、全身の衰弱に伴う不調が重なって現れるようになります。
日本人に多くみられる7つのがん※における主な症状と、転移による症状についてみていきます。
※参照元:国立がん研究センター がん情報サービス
https://ganjoho.jp/public/cancer/index.html 2026年6月19日時点。新たに診断される患者数が、1年間に10万人あたり30人以上のがんを「日本に多いがん」として掲載。
| がんの種類 | がんの主な症状 | 転移による主な症状 |
|---|---|---|
| 大腸がん | 血便、貧血、腹痛、便秘・下痢、腸閉塞(強い吐き気、激しい腹部膨満感) | 腹水や排尿障害(腹膜播種)、肝転移による強い倦怠感や黄疸、肺転移による咳や息切れ、骨転移による激痛、脳転移による頭痛や意識障害・けいれん |
| 胃がん | 食欲不振、吐き気・嘔吐、胃もたれ、腹部膨満感、体重減少、吐血、下血 | 腹水や排尿障害(腹膜播種)、肝転移による強い倦怠感や黄疸、肺転移による咳や息切れ、骨転移による激痛、脳転移による頭痛や意識障害・けいれん |
| 肺がん | 激しい呼吸困難、頑固な咳、血痰、胸の痛み、胸水 | 骨転移による腰・背中の痛み、脳転移による頭痛・吐き気・意識障害・けいれん、がん悪液質による強い倦怠感 |
| 膵臓がん | 栄養吸収障害、体重減少、食欲不振、 糖尿病の発症や悪化、背中・腰の激痛、黄疸 |
肝転移による倦怠感・黄疸の悪化、腹水(腹膜播種)、お腹の張り、骨転移による激痛、肺転移による咳や息切れ、胸の違和感、顕著な体重減少や栄養不良など全身の衰弱が進行 |
| 肝臓がん | 体重減少、黄疸、腹水、皮膚のかゆみ、足のむくみ(浮腫)、全身の倦怠感、 肝性脳症(意識障害・混乱、昏睡) |
骨転移による激痛、肺転移による咳や息切れ、脳転移による頭痛や意識障害・けいれん、リンパ節転移によるリンパ節の腫れや違和感 |
| 前立腺がん | 排尿痛、頻尿、残尿感、血尿、血精液症、排尿困難 | 骨転移による腰や股関節の持続的な激痛や下半身のしびれ・麻痺(脊髄圧迫)、リンパ節転移によるリンパ節の腫れや圧迫感、下肢のむくみ(浮腫)、肝転移による強い倦怠感や黄疸、肺転移による咳や息切れ、胸の違和感、脳転移による頭痛や意識障害・けいれん |
| 乳がん | 乳房の硬いしこり・痛み、皮膚のくぼみ・ひきつれ、乳頭分泌異常、わきの下のリンパ節の腫れ・痛み | 骨転移による腰や股関節の激痛・病的骨折、肺転移による咳・息切れ、肝転移による強い倦怠感や黄疸、脳転移による頭痛や意識障害・けいれん、発熱、全身の衰弱 |
大腸(結腸・直腸)の粘膜から発生するがんです。
【末期になると】
がんが大きくなって腸を塞いだり、血液の流れに乗って肝臓や肺などの別の臓器に転移したりすることで、症状が深刻化します。
大腸で起きる症状:
がんからの持続的な出血による血便や重度の貧血、腫瘍の圧迫による慢性的な腹痛、腸が狭くなることによる便秘や下痢の繰り返し。
もっとも注意すべきは、腸が完全に詰まってしまう「腸閉塞(ちょうへいそく)」で、強い吐き気、激しいお腹の張り、便やガスが出ないといった苦痛を伴います。
転移によって起きる症状:
がんがお腹の膜に散らばる「腹膜播種(ふくまくはしゅ)」を起こすと、お腹に大量の水分(腹水)がたまって苦しくなります。
また、肝臓転移による強いだるさ(倦怠感)や黄疸(おうだん)、肺転移による息切れや呼吸困難、骨転移によるズキズキとした激しい痛み、骨折リスクの増加などがみられます。
胃の粘膜から発生するがんで、高齢の方に多くみられます。がんの進行に伴って胃の容積が小さくなったり動きが悪くなったりするため、食事が満足に摂れなくなる症状が中心となります。
【末期になると】
大腸がんと同様に、がんが大きくなるにつれ腹膜への影響が出やすく、満足に食事を摂れないことによる体重減少・体力低下が著しくなります。
胃で起きる症状:
胃の消化・運動機能が落ちることによるひどい食欲不振、胃の出口ががんで狭くなることで食べたものを戻してしまう吐き気や嘔吐、胃もたれやお腹の膨満感(ぼうまんかん)。
これらが重なることで急激な体重減少が起こります。また、がんから出血することによる吐血や、便が黒くなる下血(げけつ)がみられます。
転移によって起きる症状:
腹膜への転移(腹膜播種)による腹水の増加が目立ち、お腹の圧迫感や足のむくみが強くなります。
そのほか、転移先の肝臓、肺、骨、脳などに応じた全身の痛みや倦怠感、呼吸の苦しさが加わります。
肺の気管支や肺胞の細胞ががん化したもので、喫煙との関係が深いものの、進行するまで症状が出にくいという性質があります。
【末期になると】
呼吸を司る肺そのものの機能が大きく損なわれるため、命に直結するようなつらい呼吸器症状が前面に出てきます。
肺で起きる症状:
がんが空気の通り道を塞いだり、肺の一部を押しつぶしたりすることによる激しい呼吸困難(息苦しさ)、気道を刺激し続ける頑固な咳や血の混じった痰(血痰)、がんが胸の膜(胸膜)に及ぶことによる胸の痛み。
また、胸膜に水がたまる「胸水(きょうすい)」が起きると、肺が水で圧迫されてさらに息が苦しくなります。
転移によって起きる症状:
肺がんは骨や脳に転移しやすい特徴があります。骨転移による激しい腰や背中の痛み、脳転移による頑固な頭痛・吐き気・意識障害・けいれんのほか、全身の栄養や筋肉が奪われて急激に衰弱していく「がん悪液質(あくえきしつ)」による強い倦怠感が現れます。
胃の真裏にある膵臓にできるがんで、「もっとも発見が難しい」といわれる、がんのひとつです。
【末期になると】
食べ物を消化する液(膵液)や血糖値を調節するホルモン(インスリンなど)を出す重要な臓器であるため、進行すると消化と代謝のバランスが完全に崩れてしまいます。他の臓器にも転移することで、全身にさまざまな症状が現れます。
膵臓で起きる症状:
膵液が出なくなることによる深刻な栄養吸収障害と、それに伴う急激な体重減少、また膵臓肥大化による食欲不振。加えて、インスリンが出なくなることによる糖尿病の発症や悪化、がんが周囲の神経を巻き込むことによる激しい背中や腰の痛みを伴うことがあります。
また、がんがすぐ隣にある胆管を押しつぶすことで、皮膚や目が黄色くなる「黄疸」が強く出やすくなります。
転移によって起きる症状:
もっとも多い転移先である肝臓の機能低下(倦怠感や黄疸の悪化)、腹膜転移による腹水やお腹の強い張り、骨転移による激しい痛みが重なり、全身の衰弱が一段と進んでいきます。
肝臓の細胞から発生するがんで、多くは「肝細胞がん」です。肝臓は「沈黙の臓器」とも呼ばれ、自覚症状がほとんどないまま、がんが進行していくのが特徴です。
【末期になると】
体中の有害物質を処理(解毒)したり栄養を蓄えたりする役割を担う臓器であるため、これらの機能がストップすると、全身が毒素に侵されるような特有の症状が現れます。
肝臓で起きる症状:
肝機能低下や栄養不良による急激な体重減少、胆汁の流れが悪くなりビリルビン(古くなった赤血球が分解される際に作られる黄褐色の色素)が処理できなくなることによる皮膚や白目の強い黄疸、お腹に大量の水が溜まる腹水、血液中の成分が原因で起こる全身の激しいかゆみ、足のひどいむくみ(浮腫)、代謝低下による起き上がれないほどの全身に及ぶ倦怠感。
とくに、有害なアンモニアを解毒できなくなり脳に毒素が回る「肝性脳症(かんせいのうしょう)」が起きると、意識が混乱したり、手が細かく震えたり、最終的にはぐっすり眠ったまま起きなくなる昏睡状態に陥ることがあります。
転移によって起きる症状:
骨への転移による激しい痛みや骨折リスクの増加、肺への転移による激しい咳や息切れなどが重なり、体力の消耗に拍車がかかります。
男性特有の臓器である、膀胱のすぐ下にある前立腺に発生するがんです。進行すると、前立腺の真ん中を通っている尿道をがんで締め付けてしまうため、排尿に関するトラブルが現れ始めます。
【末期になると】
骨をはじめとするさまざまな臓器に転移し、全身症状が強く出るようになります。
前立腺で起きる症状:
尿道が圧迫されることによる排尿時のヒリヒリとした痛み、膀胱が刺激されることによる極端な頻尿(トイレの回数増加)や尿を出したあとの残尿感、尿や精液に血が混じる症状。
さらに尿が出にくくなる、尿の勢いが弱まるなどの「排尿困難」に至ることもあります。
転移によって起きる症状:
前立腺がんは骨(とくに腰椎や骨盤)に非常に転移しやすいという性質があります。そのため、末期になると腰や股関節の耐えがたい痛みが持続し、がんが背骨の神経(脊髄)を圧迫すると、下半身のしびれや足が動かなくなる麻痺を引き起こすことがあります。
乳腺の組織から発生するがんで、女性に多くみられます。
【末期になると】
比較的早い段階から、別の臓器へ転移しやすい性質があり、全身にさまざまな症状が現れます。
乳房で起きる症状:
がん細胞が大きくなることで触れる硬いしこり、炎症や圧迫が原因で生じる痛み、周囲の組織を引っ張る皮膚のくぼみやひきつれ、乳頭から血の混じった液体が出る分泌異常。
また、わきの下のリンパ節(腋窩リンパ節)が大きく腫れて痛むこともあります。
転移によって起きる症状:
乳がんはとくに腰椎・骨盤の骨転移による激しい痛みや、軽い衝撃で骨が折れてしまう「病的骨折」、肺転移による長引く咳や息切れ、脳転移による頑固な頭痛や吐き気などが現れます。また、倦怠感や発熱など、がんの進行や治療による影響で全身が大きく衰弱していきます。
「根治が難しい」といわれる段階であっても、患者さんの苦痛を取り除き、身体的かつ精神的に、そして社会的に支えるための体制が用意されています。
ここでは主に以下の3つのケアやアプローチを組み合わせて、患者さんの生活の質(QOL)を保っていく方法を紹介します。
緩和ケアとは、病気そのものを治すことではなく、「患者さんが自分らしく、できるだけ穏やかに日々を過ごすこと(生き方)」に注目して支えるケアです。
痛み止め(医療用麻薬など)を使って身体の痛みを徹底的に和らげるほか、息苦しさや吐き気といった不快な症状を抑え、日常生活のサポートや心のケア、ご家族の悩みにまで寄り添い、支えます。
よく似た用語に「ホスピスケア」がありますが、内容に大きな違いはありません。
緩和ケア:
がんと診断された「最初」の段階から、治療と並行していつでも受けられます。
ホスピスケア:
がんの進行が進み、治療による効果が期待できなくなった「終末期」の段階から、苦痛緩和に特化して受けられます。
専用の「緩和ケア病棟(ホスピス)」に入院するだけでなく、住み慣れたご自宅で訪問診療を受けながら生活を続けることもできるものです。
ターミナルケアは、日本語で「終末期医療」や「看取りのケア」と訳されることが多いケアです。
生き方に注目する緩和ケアに対し、ターミナルケアは、人生の最後の数週間〜数日間という最期に「いかに苦痛や恐怖なく、安らかに迎えられるか」という点に重きを置いています。
無理な延命処置(心臓マッサージや人工呼吸器の装着など)は行わず、穏やかな旅立ちをご家族やパートナーとともにサポートします。
末期がんであっても、がん自体の治療(薬物療法や放射線治療など)や手術を完全にやめてしまうとは限りません。
たとえば、「骨の転移による痛みを減らすために、その場所にだけ放射線を当てる(緩和的放射線)」や「食事がのどを通るようにするために、狭くなった部分を広げる処置をする」など、緩和ケアは「生活の質(QOL)を保ち、つらさを軽減するため」という目的のうえで、治療や手術と併用される場合があります。
「末期がん」とは、がんが進行して治療による根治(完治)が難しい状態を指す言葉であり、遠隔転移の有無を示す「ステージ4」という医学的分類とは、必ずしも一致するものではありません。
また、がんの種類によって現れる不調は、局所的な症状に加えて、肺や肝臓、骨、脳といった転移先に応じた激しい痛みや息苦しさ、さらには、全身の急激な衰弱に至るまでさまざまですが、これらのつらい症状を「仕方のないもの」としてひとりで我慢する必要ありません。
現代の医療においては、がんと診断された段階から受けられる「緩和ケア」や「ホスピスケア」、そして最期を安らかに支える「ターミナルケア」といった、多角的なサポート体制が整っており、医師や看護師などの医療チームが、患者さんやご家族の心身の苦痛を和らげるために全力を尽くしてくれます。
数字としての余命だけに目を向けるのではなく、専門的なサポートを頼りながら、患者さんご自身が「診断後の毎日を、どのように過ごしたいか」という希望を重視し、主治医とコミュニケーションを重ねて、納得のいく心地よい時間を紡いでいきましょう。
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