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膵臓がん(すいぞうがん)は、初期段階では自覚症状がほとんど現れないことから「沈黙のがん」と呼ばれることのあるがんです。そのため、体調の変化に気づいて受診したときには、すでに病状が進行しているケースも少なくありません。
遠隔転移(別の臓器への広がり)が見つかるステージ4は、進行度のうえではもっとも進んだ段階にあたりますが、決して「もう治療法がまったくない」というわけではありません。

本記事では、ステージ4の膵臓がんについて、基礎知識から生存率のデータ、具体的な治療法や合併症への対策、そして初期から支えとなる緩和ケアまでをわかりやすく解説します。

膵臓がんの基礎知識

まずは、膵臓(すいぞう)という臓器がどこにあり、どのような働きをしているのかを確認していきましょう。

膵臓とは?

膵臓は、お腹の深いところ(胃の真裏あたり)に位置する、長さ15cmほどの細長い臓器です。向かって右側のふくらんだ部分を「膵頭部(すいとうぶ)」、左側の細長い部分を「膵尾部(すいびぶ)」と呼びます。

膵臓には、主に以下の2つの重要な役割があります。

  1. 消化を助ける(外分泌機能):
    食べ物の消化に欠かせない「膵液(すいえき)」という消化液を作り、十二指腸へと送り出します。とくに脂肪やたんぱく質を効率よく分解するために不可欠な役割を担っています。
  2. 血糖値をコントロールする(内分泌機能):
    血液中の糖分の量を調節する「インスリン」や「グルカゴン」というホルモンを分泌します。とくにインスリンは血糖値を下げる唯一のホルモンであり、膵臓の機能が落ちてインスリンがうまく出なくなると、糖尿病のリスクが高まります。

【もし、膵臓が身体になかったら】
①糖尿病になり、インスリン注射が手放せなくなる

血糖値を下げる唯一のホルモンである「インスリン」が体内で一切作られなくなるため、確実に糖尿病になります。

②深刻な消化吸収障害(下痢や体重減少)が起きる
油分やたんぱく質を分解する強力な消化酵素(膵液)が出ないため、食べたものをうまく消化・吸収できなくなります。
③脂肪肝になりやすくなる

膵液が出ないと小腸での脂質の代謝バランスが崩れ、行き場を失った脂肪が肝臓に溜まりやすくなるためです。

膵臓がんの症状

膵臓がんは初期のうちは症状が乏しいですが、進行してくると以下のようなサインが現れ始めます。

  • 腹痛、あるいは腰や背中の重い痛み
  • 食欲の低下、原因不明の体重減少
  • お腹の張り(膨満感)
  • 肌や白目が黄色くなる:黄疸(おうだん)
  • 糖尿病の急激な悪化(血糖値のコントロールが難しくなる)

ただし、これらの症状は胃腸の不調や他の病気でもよく見られるため、膵臓がんだと特定することが難しいという特徴があります。このような複雑さも、早期発見を難しくしている要因のひとつです。

ステージ4膵臓がんの定義

膵臓がんの進行度は、国際的な基準(TNM分類)に基づき、がんの大きさと広がり、リンパ節転移の有無、そして遠隔転移の有無を組み合わせて「0期〜Ⅳ期」の段階に分類されています。

日本膵臓学会の分類に基づく各ステージの大まかな条件は以下の通りです。

  • ステージ0:
    がん細胞が膵管(すいかん…膵臓で作られた消化液:膵液を十二指腸へと運ぶための管 )の表面の粘膜内(上皮内)だけにとどまっている、ごく浅い状態。
  • ステージ1(ⅠA・ⅠB):
    がんが膵臓の中だけに留まっており、リンパ節などの周囲への広がりはない状態(大きさによってAとBに分類されます)。
  • ステージ2(ⅡA・ⅡB):
    がんが膵臓の外へ飛び出している状態(ⅡA)
    あるいは、がんの大きさに関わらず首や周囲の「リンパ節への転移」がみられる状態(ⅡB)。
  • ステージ3:
    がんが膵臓の近くを走る重要な太い血管(腹腔動脈や上腸間膜動脈)にまで深く食い込んでいる状態。
  • ステージ4: 「遠隔転移」が確認された状態。

ステージ4の大きな特徴

ステージ4では、最初にできたがんの大きさや、近くのリンパ節への転移があるかどうかは関係ありません。「膵臓から遠く離れた別の臓器や組織に転移(遠隔転移)している」と確認された時点で、すべてステージ4と判断されます。
がん細胞が血液やリンパ液の流れに乗って移動することで起こり、膵臓がんの場合は、とくに肝臓、腹膜(お腹の膜)、肺、骨などに転移しやすい傾向があります。

ステージ4膵臓がんの生存率

生存率とは、がんと診断された患者さんが、一定期間(5年、10年など)の経過のうえでどのくらい健やかに過ごされているかを集計した統計データです。

国立がん研究センターのデータ(2015年診断例)によると、ステージ4の膵臓がんにおける5年生存率は以下の通りです。

  • 実測生存率:1.5%
  • ネット・サバイバル(純生存率):1.6%

参照元:国立がん研究センター がん情報サービス がん統計「院内がん登録生存率集計結果」膵臓がん
※実測生存率:がん以外の原因による死亡も含め、実際に5年後に生存している方の割合
※ネット・サバイバル:他の病気や事故など、がん以外の死因による影響を完全に除外して算出した割合
※診断年と生存率:2015年5年生存率
https://hbcr-survival.ganjoho.jp/search

これらは非常に厳しい数字に見えますが、あくまで「過去の平均的な統計データ」に過ぎません。近年では新薬の開発や合併症への治療技術が進化を続けており、患者さん一人ひとりの体質や状態によって実際の経過は異なります。

生存率の計算方法について、より詳しく知りたい方は下記ページ内に「生存率とは?」や「生存率の種類」についてまとめていますので、参考にしてください。

生存率の計算方法は?そもそも「生存率」とは?

ステージ4膵臓がんの治療法

ステージ4の段階では、がんがすでに他の臓器へ広がっているため、手術でがんをすべて取り除く(切除する)ことは難しいと判断されます。そのため、手術の代わりに「薬物療法(化学療法)」を中心とした治療を行い、がんの進行を抑えながら、身体に出ているつらい症状を和らげていくアプローチがあります。

主な薬物療法の種類

患者さんの体力、がんの性質、遺伝子の特徴などを総合的に考慮して、主に以下の3つのタイプの薬が検討されます。

1. 細胞障害性抗がん薬

いわゆる「従来型の抗がん剤」で、がん細胞が分裂して増える仕組みを邪魔する薬です。
がん細胞だけでなく正常な細胞にも影響が及ぶため、手足のしこり・しびれ、口内炎、吐き気や嘔吐、脱毛、下痢といった副作用が出やすい傾向があります。

また、血液を作る機能が一時的に下がり、白血球が減って感染症にかかりやすくなったり、肝臓や腎臓の数値が低下したりすることもあります。

※現在は吐き気を強力に抑える薬なども進歩しているため、以前よりも副作用をコントロールしやすくなっています。つらいときは薬の量を調整したり、休薬を挟んだりしながら進めていきます。

2. 分子標的薬(ぶんしひょうてきやく)

がん細胞の増殖や生存に関わっている「特定のタンパク質や分子」をピンポイントで狙い撃ちにする薬です。
事前の遺伝子検査によって、薬が効く特徴を持っていると判断された場合に用いられます。

3. 免疫チェックポイント阻害薬

薬の効果でがん細胞が免疫にかけているブレーキを外し、患者さん自身が本来持っている免疫力でがんと闘わせる薬です。
こちらも特定の遺伝子変異などが認められた場合に検討されます。

治療の全体的な流れ

実際の薬物療法では、まず科学的根拠に基づいて、もっとも効果が期待できそうな薬の組み合わせからスタートします(一次化学療法)。状態によっては、放射線治療を併用するケースもあります。
もし一次化学療法で薬の効果が薄れてきたり、副作用で継続が難しくなったりした場合は、別の種類の薬に切り替えて治療を継続します(二次化学療法)。

進行に伴う合併症への対処法

膵臓がんが進行すると、周囲の臓器を圧迫することでさまざまな合併症を引き起こすことがあります。合併症を適切に処置し、がん治療のための体力を保つことも大切です。

黄疸(おうだん)や胆管炎(たんかんえん)への対策

がんが肥大して、肝臓からの消化液(胆汁:たんじゅう)が通る「胆管」を押しつぶしてしまうと、胆汁がスムーズに流れなくなります。その結果、成分が血液中にあふれて黄疸が出たり、細菌感染を起こして激しい胆管炎を併発したりします。

  • 対処法(胆道ドレナージ):
    内視鏡や体外から細い管(ステント)を胆管に通し、詰まった胆汁をスムーズに外へ逃がす通り道を確保する処置を行います。これにより黄疸や痛みが速やかに改善します。

消化管・胆管が詰まったときの対策

がんが胃の出口や十二指腸を塞いでしまうと、食べ物が胃から先に進まなくなり、強い吐き気や食事が摂れない原因になります。

  • 十二指腸ステント療法:
    狭くなってしまった十二指腸の中に内視鏡を使って金属製の網状の筒(ステント)を広げ、食べ物が通れるようにします。
  • バイパス手術:
    ステントの留置が難しい場合は、胃と空腸(小腸の中央部分)を直接つなぎ合わせる(胃空腸バイパス術)など、食べ物ががんを迂回して流れるようにするための新しいルートを確保します。

知っておきたい緩和ケアのこと

緩和ケアとは、がんと診断された患者さんとそのご家族が抱える、身体と心のさまざまなつらさを和らげ、自分らしい安心した生活(生活の質=QOL)を維持するための医療ケアです。

緩和ケアの重要なポイント

  • がんと診断されたらすぐに受けることが可能
    かつては「打つ手がなくなったら」というイメージがありましたが、現在は、「がんと診断された初期段階から、抗がん剤などの治療と並行して、最初から一緒に受けるもの」という認識がスタンダードとなっています。
    診断結果直後のショックや、お腹・背中の痛みといった心身の苦痛を早い段階から取り除くことで体力を維持し、より前向きにがん治療を続けられるようにします。
  • さまざまな専門家がチーム一丸となって支援
    主治医や看護師だけでなく、薬剤師、心理士、経済面や生活環境の手続きをサポートするソーシャルワーカーなどが「緩和ケアチーム」として結成され、トータル支援を行います。ケアを受ける場所も病院の外来、入院病棟、ホスピス、ご自宅訪問など、患者さんの状態やご希望に合わせて柔軟に選択できます。
    ※ケアを受ける場所については医療機関によって異なる場合があります。

まとめ

膵臓がんは初期症状が出にくく、遠隔転移を伴うステージ4の段階で発見されるケースも多い病気です。一方で、医療が進歩した現代においては、ステージ4であっても選択できる治療法や対応策が数多く存在しています。
ステージ4の段階では手術によるがんの完全な切除は難しいですが、細胞障害性抗がん薬や分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬といった薬物療法を中心にがんの進行を抑えるアプローチが行われ、黄疸や消化管の閉塞といったつらい合併症に対しても、ステント治療やバイパス手術などで、速やかに症状を和らげる体制が整っています。

過去の統計による5年生存率は約1.5%と大変厳しい数字ではありますが、これはあくまでひとつの目安にすぎないことを、念頭におきましょう。
患者さん一人ひとりの病状や日々の体調に合わせた治療と、早期からの緩和ケアとを並行して行うことも可能です。
医療チームのサポートを受けながら、身体や心の痛みを我慢せず、自分らしい健やかな生活の質(QOL)を保ちつつ、病気と向き合っていくことが何よりも大切なことです。

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