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口腔がん(こうくうがん)は、お腹の中などにあるがんとは異なり、「自分の目で見て、手で触れて確認できる」という大きな特徴があります。その一方で、全体のがんのなかでも症例数が少ない希少がんのひとつでもあります。

本記事では、口腔がんの基礎知識をはじめ、進行度を表すステージの定義、具体的な症状、治療法、そして初期段階から支えとなる緩和ケアについて解説します。

口腔がんとは?

口腔がんとは、「口の中に発生するがん」の総称です。がんができた場所(部位)によって、以下のように細かく分類されます。
■舌がん(ぜつがん): 舌にできるがん
■歯肉がん(しにくがん): 歯ぐきにできるがん
■頬粘膜がん(きょうねんまくがん): ほおの内側の粘膜にできるがん
■口腔底がん(こうくうていがん): 舌と下の歯ぐきの間の溝にできるがん
■硬口蓋がん(こうこうがいがん): 上あごの骨がある固い部分にできるがん
■口唇がん(こうしんがん): くちびるにできるがん
なかでも日本人にもっとも多いのは「舌がん」で、口腔がん全体の約55%を占めています。また、女性に比べて男性の罹患(りかん)率が、約2倍高いという特徴もあります。

口腔がん「希少がん」としての側面

口腔がんに分類されるそれぞれのがん種の年間罹患率は「人口10万人あたり6例未満」であり、医学的に「希少がん(数が少ないがん)」に分類されます。希少がんには、口腔がんの他にも、脳腫瘍、男性乳がん、小腸がんなど、200種類近くのがんが存在しています。

口腔がんの症状

口腔がんの初期症状は、口の中の粘膜の色が変わる(白くなる、赤くなる)、ただれる、しこりができる、痛むなどです。口内炎と見分けがつきにくいこともありますが、ステージが進行すると、以下のような日常生活に支障をきたす症状が現れ始めます。
■口が大きく開けにくくなる
■食事がうまく飲み込めなくなる
■言葉がうまく発せなくなる(話しにくい)
■あごの下や首すじのリンパ節が腫れる(しこりができる)
【早期発見のために大切なこと】
口腔がんは鏡を使って自分自身でチェックできるがんです。
普段から口の中を観察する習慣をつけ、2週間以上治らない口内炎や、触ると固いしこりなどの違和感がある場合は、早めに耳鼻咽喉科・歯科口腔外科・頭頸部(とうけいぶ)外科を受診しましょう。

ステージ4口腔がんの定義

口腔がんの進行度は、国際的な基準(TNM分類)に基づいて「0、Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ、ⅣA、ⅣB、ⅣC」の7段階に細かく分かれています。
このステージは、以下の3つの要素を組み合わせて判定されます。
1. 原発巣(げんぱつそう): 最初にがんが発生した場所の大きさと、組織の深さ
2. 頸部(けいぶ)リンパ節転移: 首のリンパ節への転移があるか、その大きさと数
3. 遠隔(えんかく)転移: 肺や骨など、口から遠く離れた別の臓器への転移があるか

進行状況に応じた大まかな分類と各ステージの条件は以下の通りです。

1. 早期がん(ステージ0〜Ⅱ)

がんはまだ局所にとどまっており、首のリンパ節や他の臓器への転移はありません。

ステージ がんの大きさと深さ リンパ節転移 遠隔転移
ステージ0 粘膜の表面(ごく浅い部分)だけにとどまっている なし なし
ステージⅠ 直径2cm以下、かつ深さ5mm以内 なし なし
ステージⅡ 直径2cm以下で深さ5mm超、または直径2〜4cmで深さ10mm以内 なし なし

2. 局所進行がん(ステージⅢ〜ⅣB)

がんが大きく、または深くなっている状態、あるいは首のリンパ節へがんが広がっている状態です。

■ ステージⅢ

以下のいずれかのパターンに該当し、遠隔転移はありません。

  • パターンA: リンパ節転移はないが、がん自体が大きい、または深い(直径2〜4cmで深さ10mm超、または直径4cm超で深さ10mm以下)。
  • パターンB: がん自体は小さくても、がんと同じ側の首のリンパ節に「直径3cm以下の転移が1個」みられる(リンパ節の外側には広がっていない状態)。
    ※がんの大きさや深さは以下いずれか
    直径が2cm以下で深さが5mm以内
    直径が2cm以下で深さが5mmを超える(または直径2cmを超え4cm以下で、深さが10mm以下)
    直径が2cmを超え4cm以下で深さが10mmを超える(または直径4cmを超え、深さが10mm以下)

■ ステージⅣA

遠隔転移はありませんが、がんがさらに大きく深くなるか、首のリンパ節転移の状況が変化した段階です。

  • がんの広がり: あごの骨(下顎骨)を貫通している、周囲の神経や皮膚、上顎の空洞(上顎洞)に広がっているなど。
  • リンパ節転移: なし、または「同じ側に3cm以下が1個」、あるいは「1個でも大きい」「片側に複数」「両側や反対側のリンパ節に転移」のいずれかに該当。
    ※がんの大きさや深さは以下いずれか
    直径が2cm以下で深さが5mm以内
    直径が2cm以下で深さが5mmを超える(または直径2cmを超え4cm以下で、深さが10mm以下)
    直径が2cmを超え4cm以下で深さが10mmを超える(または直径4cmを超え、深さが10mm以下)
    直径が4cmを超え、深さが10mmを超える

■ ステージⅣB

遠隔転移はありませんが、周囲の重要組織への浸潤や、重度のリンパ節転移がみられる段階です。

  • がんの広がり: ステージⅣAの条件に加え、さらに深い場所(咽頭側壁、頭蓋底など)や太い血管(内頚動脈)の周囲にまで広がっている。
  • リンパ節転移: リンパ節の転移が6cmを超える大きなもの、あるいはリンパ節の壁を突き破り、周辺の組織にまでがんが広がっている。

3. 進行がん(ステージⅣC)

  • 遠隔転移がある状態
    ※がんの大きさや、首のリンパ節転移の有無・程度は問いません。

口から遠く離れた臓器にがん細胞が広がっている(遠隔転移)と確認された時点で、すべてステージⅣCと判断されます。がん細胞が血液やリンパ液の流れに乗って移動することで起こり、口腔がんの場合は、とくに肺や骨に転移しやすい傾向があります。

※参照元: 国立がん研究センター「口腔がんの検査・診断について」2026年6月19日時点
https://www.ncc.go.jp/jp/information/knowledge/oral/002/index.html

口腔がんの治療に関するよくあるQ&A

Q1:治療方針はどのようにして決まりますか?

がんが発生した正確な場所、がんの種類(組織型)、そしてステージ(進行度)を総合的に判断して決定します。とくに、「がん自体の大きさと深さ」、および「首のリンパ節に転移があるかどうか」が、具体的な治療計画を立てるうえでの重要な指標となります。

Q2:基本的な標準治療にはどのようなものがありますか?

口腔がんの標準治療は、ステージ0からⅣBにいたるまで「外科手術(手術による切除)」が基本となります。手術では、がん細胞が存在する組織(原発巣)を取り除きます。なお、病状の進行度や患者さまの全身状態に応じて、手術の前後に放射線治療や化学療法(抗がん剤治療)を組み合わせたり、心身のつらさを和らげるための緩和ケアを同時に行ったりします。

Q3:外科手術にはどんな種類がありますか?

口腔がんの手術は、がんの根治を目指すだけでなく、治療後の「話す」「食べる」といった大切な機能を残すことも考慮して行われます。主に以下の3つの手術があります。

1. 原発巣切除術(げんぱつそうせつじょじゅつ)

がんが発生した本体とその周囲の正常な組織を、安全のために少し含めて切り取る手術です。
がんがあごの骨にまで及んでいる場合は、骨の一部も合わせて切除します。がんの場所によって方法は異なります。

  • 舌部分切除術: 舌の一部(半分未満)を切り取る
  • 舌可動部半側切除術: 舌の動く部分の半分までを切り取る
  • 下顎辺縁切除術: あごの骨の形をある程度残しながら、部分的に切り取る
  • 下顎区域切除術: 下あごの骨をブロックごとに切り取る

2. 頸部郭清術(けいぶかくせいじゅつ)

首のリンパ節を周囲の組織(血管、神経、筋肉など)と一緒に取り除く手術です。
口腔がんは首のリンパ節に転移しやすい性質があるため、すでに転移が確認されている場合や、目に見えなくても転移の可能性が高いと判断された場合に実施されます。

3. 再建手術(さいけんしゅじゅつ)

大きながんを切除した後に、失われた口の中の形や、話す・食べる・飲み込むといった機能を維持・回復させるための手術です。
患者さま自身の体の一部(お腹や太ももの皮膚、筋肉など)を移植したり、人工的な医療用材料を用いたりして補います。

Q4:手術以外の治療にはどんな種類がありますか?

がんの進行度や状態によっては、手術に加えて、あるいは手術の代わりに以下の治療を行います。

放射線治療

がん細胞に強いエネルギーを照射してダメージを与える治療です。手術で取りきることが難しい場合や、手術後の再発リスクを下げる目的で、抗がん剤と併用して行う「術後化学放射線治療」などが代表例です。

放射線治療の副作用

放射線治療には以下のような副作用があります。
■治療中〜数ヶ月以内の主な副作用
・口の中が乾く
・唾液が減る
・味覚障害
・口腔粘膜の痛み(口内炎のような症状)
・声がかすれる
・食べにくい、飲み込みにくい
副作用が強く出て食事から栄養がとれない場合、入院が必要になることもあります。
■治療後、数ヶ月以降の主な副作用
・口が開けにくくなる
・虫歯が増える
・歯がもろくなる、抜ける
・あごの骨の壊死・炎症(放射線性下顎骨壊死) ※とくに抜歯後
・まれに、別の新しいがん(二次発がん)ができることも
このように放射線治療は口腔内への副作用が現れます。
治療後は口の中を清潔に保ち、放射線治療を終えた後に歯科治療(抜歯など)を受ける際は、必ず 「放射線治療を受けた経験がある」ことを伝える必要があります。

化学療法
薬物療法(抗がん剤・分子標的薬・免疫チェックポイント阻害薬)

薬物療法には、細胞分裂を阻害する「細胞毒性抗がん剤」のほか、がん細胞の増殖シグナルを遮断する「分子標的薬」や、がん細胞による免疫ブレーキを解除する「免疫チェックポイント阻害薬」があります。
■術後高リスク例に対する再発予防(術後化学放射線療法)
手術で病変を切除できても、病理組織検査で切除断端が陽性であったり、リンパ節の被膜外にまでがんが及んでいる(ENE陽性)など再発リスクが高い場合は、放射線治療に抗がん剤を併用する「術後化学放射線療法」を行い、根治率を高めます。
■手術が難しい場合や再発・遠隔転移を起こした場合
病変の広がりにより手術が適応とならない局所進行がんや、再発・遠隔転移が生じた場合には、PD-L1の発現状況(CPSスコア:がん組織におけるタンパク質に関する数値)などに応じて免疫チェックポイント阻害薬を、単剤または抗がん剤と併用して投与する治療が標準となっており、生存期間の延長に寄与しています。

知っておきたい緩和ケアのこと

緩和ケアとは、がんなどの重い病気に直面している患者さまとそのご家族が抱える、体と心のつらさを和らげ、自分らしい生活を送れるように支えるための医療・ケアです。

緩和ケアはいつから受けられるか

緩和ケアは、がんと診断されたらすぐに受けることができます。
現代の医療において、緩和ケアは「がん治療がすべて終わってから受けるもの」ではなく、「がんと診断された初期段階から、がん自体の治療と並行して受けるもの」へと変わっています。告知による精神的なショックや、初期から生じる体の痛み、不安を早い段階からケアすることで、その後の治療にも前向きに取り組みやすくなります。

緩和ケアの体制

・主治医
・看護師
・お薬の調整をする薬剤師
・心のケアを行う心理士
・生活面や経済面の相談に乗るソーシャルワーカー
などが連携した、緩和ケアチームがサポートします。
病院の外来、専用病棟(ホスピス)、またはご自宅での訪問ケアなど、患者さまの希望や体調に合わせた場所で受けることが可能です。

まとめ

口腔がんは、初期のうちであれば自分自身の手や目で変化に気づきやすいという大きな特徴を持っています。進行度を示すステージは、がんの大きさに加え、首のリンパ節への転移や他の臓器への遠隔転移の有無によって細かく判定されます。とくにステージ4は、局所にとどまる段階(ⅣA・ⅣB)と遠隔転移がある段階(ⅣC)で治療方針が大きく異なります。
治療は外科手術による原発巣の切除を基本とし、病状に応じて放射線治療や化学療法、機能を補うための再建手術などが検討されます。
また、治療の過程で生じる痛みや不安に対しては、がんと診断された段階から受けられる緩和ケアを活用することで、病気に向き合うことができます。緩和ケアは治療の終わりではなく「がんと向き合うすべての過程」で利用でき、痛みや不安をやわらげ、生活の質(QOL)を高めるための大切な選択肢です。
お口の中に少しでも気になる症状や長引く違和感がある場合は、専門の医療機関へ相談・受診が大切です。口内炎かなと放置したり、我慢したりせず、早めに相談するようにしましょう。

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