卵巣がんは、初期のうちは自覚症状が出にくく「サイレントキラー(静かなる暗殺者)」と呼ばれることがあるがんです。「気づいた時には病状が進んでいた」というケースも少なくありません。
本記事では、卵巣がんの末期に起こりうる体への影響(症状)や治療法、とくにこれからの時期に重要となる「緩和ケア」に重点を置いて詳しく説明します。
まずは、言葉の定義について整理しましょう。インターネットで検索する際、「ステージⅣ」と「末期」を混同してしまうことがよくありますが、これらは異なる意味を持ちます。
がん細胞が卵巣から離れ、胸水(肺の周りの水)や肝臓、肺など、離れた場所に転移(遠隔転移)している状態を指します。あくまでがんの広がりの度合いを示す言葉であり、この段階でも、ご本人の体の状態によっては積極的な治療が検討されます。
一般的に、手術や抗がん剤などの積極的な治療を行うことが難しく(あるいは効果が期待できず)、体のつらさを和らげるケアが治療の中心となる時期を指します。治療の目的が「がんの根治(完全に治すこと)」から「痛みや苦痛を取り除くこと(緩和ケア)」へと移行した状態です。
卵巣がんは、他の臓器のがんとは少し異なる広がり方をします。特徴的なのが「腹膜播種(ふくまくはしゅ)」です。これは、がん細胞が卵巣の壁を破り、お腹の中全体(腹膜)へ種をまくようにバラバラと散らばってしまう状態をいいます。
腹膜は、胃や腸などの臓器を覆っている薄い膜です。ここにがんが広がると、炎症によって水が染み出しやすくなったり、腸の動きが悪くなったりします。これが、卵巣がん特有の「お腹の張り」や「腹水」を引き起こす原因となります。
卵巣がんの患者さんが最も悩みやすい症状の一つです。がんによる炎症で、お腹の中に水(腹水)が溜まります。時には数リットルもの水が溜まり、妊婦さんのようにお腹が大きく膨らんでしまうこともあります。お腹がパンパンに張ることで胃が圧迫され、「食事が数口しか入らない」、横隔膜が持ち上げられて「息が苦しい」といったつらさにつながります。
腹水によるお腹の圧迫に加え、肺の周りに水が溜まる「胸水(きょうすい)」を併発することがあります。肺が十分に膨らまなくなるため、少し動いただけで息切れがしたり、仰向けに寝ると息苦しくなったり(起座呼吸)します。
お腹の中に散らばったがん細胞が大きくなると、腸を外側から圧迫したり、腸同士をくっつけたり(癒着)してしまうことがあります。これにより腸の通りが悪くなった状態を「腸閉塞(イレウス)」と呼びます。
・便秘が続く
・おなら(ガス)が出ない
・激しい吐き気や嘔吐(おうと)がある
・お腹がねじれるように痛む
このような症状が急に現れた場合は腸閉塞の可能性がありますので、我慢せずにすぐ病院へ連絡してください。
骨盤内の腫瘍が大きくなり、腰や足へ向かう神経を圧迫することで、腰痛や下腹部痛、足のしびれが起こることがあります。
また、がん細胞が放出する物質の影響で体の代謝が変わり、筋肉が落ちて体力が奪われる「悪液質(あくえきしつ)」という状態に陥ることがあります。これにより、「動くのが億劫(おっくう)」「すぐに疲れる」といった、非常に強いだるさを感じやすくなります。
卵巣がんが末期まで進行した段階での治療は、がんを完全に消し去ることではなく、症状を和らげて穏やかな時間を増やすことを目的に、本人の体力を見極めながら選択していきます。
末期において、がんを大幅に減らすための大規模な切除手術(腫瘍減量術)は、身体に過度な負担をかけるため、基本的に行われません。
ただし、がんの影響で腸が塞がってしまった場合(腸閉塞)に、吐き気やお腹の痛みを和らげて安全に食事をとれるようにするために、お腹に人工肛門(ストーマ)を作ったり、腸の迂回路(バイパス)をつくったりする姑息的手術(緩和目的の手術)が検討されることがあります。
卵巣がんは他のがんと比較して、薬物療法が効きやすいという特徴を持っています。
通常の抗がん剤に加え、がん細胞の遺伝子レベルの特徴に応じた治療薬が用いられます。
卵巣がんの治療として最初から放射線が選ばれることは稀ですが、末期や進行期においては症状を和らげる目的で行われます。
骨への転移による激しい痛みや、脳転移による神経症状を抑える目的(緩和照射)のほか、体幹部定位放射線治療(SBRT)などの精密な技術を用いて、限られた転移巣をピンポイントで叩き、局所の進行を抑えるアプローチも行われます。
がんの末期において、「緩和ケア」は医療の中心的な存在となります。
緩和ケアとは、病気に伴う「心と体のあらゆるつらさ」を和らげ、その人らしく過ごせる時間を守るための医療です。がんそのものを小さくする治療が難しくなった段階では、「つらさを取り除くこと」こそが、患者さんの命と生活を支えるための最も大切な治療になります。
緩和ケアは、かつては「治療の手立てがなくなった後の最後のケア」と誤解されていました。しかし現在では、「がんと診断されたその時」から受けることができる医療とされています。がん治療と緩和ケアは、車の両輪のように最初からセットで行うものへと変わっています。
緩和ケアでは、患者さんが抱えるつらさを以下の4つの側面から総合的に支えます。
腹水による苦しさ、腸閉塞による吐き気、足のむくみ(リンパ浮腫)などの症状に対し、医療の力を使って和らげます。腹水を抜いてお腹を楽にする処置、点滴による栄養管理、吐き気止めの微調整などを行います。体が楽になれば、夜眠れるようになり、会話をする元気も湧いてきやすくなります。
病気の進行を知らされた時の衝撃や、「これからどうなってしまうのか」という不安、孤独感は計り知れません。これらは誰にでも起こる自然な反応です。公認心理師や心療内科医によるカウンセリング、お薬などを用いて、心の波を穏やかにするケアが行われます。
「仕事をどうするか」「治療費の負担」といった経済的な悩みや、「家族の中での役割を果たせない」という焦りも大きな苦痛です。こうした悩みには、メディカルソーシャルワーカー(MSW)が相談に乗り、公的な支援制度や介護サービスの活用を提案して生活を支えます。
「なぜ私だけがこんな目に遭うのか」「生きている意味はあるのか」という、人間としての根源的な苦しみです。答えの出ない問いに対し、ご本人が自分なりの答えや安らぎを見つけられるよう、ご家族とともに医師や看護師がそっと寄り添います。
緩和ケアを受ける場所は、患者さんとご家族の希望、そして体調に合わせて選ぶことができます。
がんのつらさを和らげることを専門とした病棟です。一般病棟より静かで面会制限も緩やかなことが多く、ご家族と穏やかな時間を過ごせる環境が整っています。
「住み慣れた我が家で過ごしたい」という希望を叶える選択肢です。訪問診療医や訪問看護師が定期的に自宅を訪れ、医療処置を行います。24時間体制で連絡がつく仕組みがあるため、夜間の急な体調変化にも対応可能です。
これまで治療を受けてきた使い慣れた病院に入院、または通院する形です。担当医と院内の緩和ケアチームが連携してケアを行います。「これまでの経緯を知っている先生のそばが良い」という安心感があります。
卵巣がんの「末期」はステージⅣと同義ではなく、積極的な治療が難しくなり、つらさを和らげることが治療の中心となる時期を指します。卵巣がんは腹膜播種を起こしやすく、腹水によるお腹の張り、呼吸のしづらさ、腸閉塞による吐き気や便秘、強いだるさといった症状が現れやすくなります。
末期であっても、状態に応じて手術や薬物療法、放射線治療が「症状を和らげる目的」で行われることがあります。そして、その基盤となるのが緩和ケアであり、体の痛みだけでなく、心・生活・生きる意味といった「全人的苦痛」をトータルで支えます。
がんと闘うステージから、患者さんらしく穏やかな時間を過ごすステージへと移り、治療の目的が変わるだけです。患者さん本人だけでなく、支えるご家族のための心のケアや相談窓口も用意されています。決して一人で抱え込まず、主治医や病院のがん相談支援センターなどの専門チームを頼ってください。
クリニックC4は
末期がんや再発がんはもちろん
「治療方針に迷っている」
「手術以外の選択肢を探している」
という段階からのセカンドオピニオンを広く受け入れています。まずはご相談ください。